みりんを選ぶ
発売以来、じわじわと人気の「心と体、自分に向き合う弁当」。砂糖を使わずに調理することで、有機野菜のおいしさを実感できると好評です。素材の甘みを際立たせる調味料として私たちが選んだのは味の一醸造株式会社の「味の母」。「酒」の風味と「みりん」のうまみの両方の特徴を併せ持つ醗酵調味料で、日本酒や砂糖を使わずとも「味の母」だけでワンランク上のおいしさに仕上がります。
製法にもこだわっていて、米と米麹が原料の「もろみ」を醸造し、じっくり1年間熟成させて作ります。
仕込みが行われるのは12月~2月のわずか3か月のみ。1年分の「味の母」を仕込むこの時期に、埼玉県狭山市の工場を訪問し、作業の工程や歴史など貴重なお話を鈴木社長から伺いました。
みりんと塩と「味の母」
みりんの起源は諸説あるようですが、戦国時代には『甘いお酒』として女性に人気の飲み物でした。江戸時代後期になると鰻のタレやそばつゆの調味料として使われるようになったと言われています。
煮物は、浸透圧によって野菜などの食材に調味料の味がしみこむことでおいしく仕上がります。浸透圧とは、「異なる濃度の液体が、同じ濃度になろうとする力」のこと。食材の細胞内の水分と調味液が同じ濃度になろうとすることで味が入っていきます。
アルコールの沸点は約70℃です。でも料理をするときの温度は100℃になります。煮汁が沸騰する頃には通常のアルコールは蒸発してしまい食材の表面にしか味がつかない料理になってしまいます。
そこで、沸点の高いアルコール成分ならば、味が中まで浸透し美味しい料理を作ることができるのではないかと考えました。
研究を重ねた結果もろみの発酵中に塩を入れることで酵母に負荷がかかり、270℃という高沸点のアルコール成分を作ることに成功したのです。これが一般的なみりんとの違いのひとつであり、他の調味料にはない調理効果を発揮することで、次第に蕎麦屋や煎餅屋などプロの料理人に愛されるようになったのです。
酒税法と「味の母」
ところが、現在の「味の母」には「みりん」の表記がありません。その理由は酒税法との関わりにありました。
昭和28年に施行された酒税法により、酒類には税金が課せられるようになりました。アルコール分1%以上の飲料は「酒類」に分類され、みりんも課税対象となったのです。さらに、昭和37年の改正により、規定の材料と製法で作られ糖分が16%以上を「本みりん」、本みりん以外のみりんを「本直し」と名称変更。その他のものは課税されないかわりに「みりん」と表記することはできなくなりました。「味の母」にはアルコールが含まれますが、飲料として適さない量の塩分が含まれるため課税の対象外となったのです。
一般的に「醗酵調味料」は、非課税となるために塩を入れた調味料のことで「料理酒」などがこれにあたります。
しかし「味の母」は、酒税法が施行されるずっと前から美味しさを追求して塩を入れて作っていたのです。
「味の母」に込めた想い
「お母さんというのは家にいて当たり前の存在。でも、いなくなるとその存在の大きさに初めて気づかされます。料理においても、そんな大きな存在でありたいという思いで『味の母』という名前にしました。他の関連商品を開発せず『味の母』ひとすじで作り続けています。ひとつのことをちゃんとやり遂げたいという思いがあります。いろいろ手広くやってしまうと何が本物かわからなくなる。私は本当においしいもの、本当に良いものを作りたいのです。」
と熱く語る鈴木社長の言葉には、仕事への情熱はもちろん、料理を作る人、食べる人への愛情が満ち溢れていました。
「おいしく、心と体がよろこぶものを届けたい…」という想いで作っているオーガニック・キッチンのお弁当には、同じ信念を持つ味の一醸造の調味料が欠かせないと改めて感じました。野菜の甘みを引き立たせ、風味豊かに仕上げる「味の母」。姿は見えないけれど大切な味の立役者です。